青銅製の聖牛アピス神。
角の間に聖蛇ウエラウスと太陽円盤を身につけています。
背には鷲の羽とともに繊細な装飾が細かく彫り込まれています。
長い年月を経た美しい緑のパティナ、また表面には鮮やかな緑のアカタマ石が生じています。アカタマ石は銅の二次鉱物です。
このような美しい経年変化を楽しめるのも古代美術の魅力です。
聖牛アピスは創造の神プタハの再来と考えられ、メンフィスにあるプタハ寺院には仲裁者としての聖牛アピスが祀られており、御宣託を通じて人間がこの崇高な神と通じあえるようになっています。
幾多の彫像と古代ギリシャ歴史学者のヘロドトスによる著書により、聖牛アピスは他の聖牛像と比較して物理的に特徴があることが分かります。
聖牛アピスは黒色で、前額部に小さな白色の三角形の斑点を有し、時々、頭部に施される太陽円盤の装飾が神聖を表しています。
背部にはハゲタカの女神の翼を呈し、翼は聖牛本体の頂点に沿って入念に彫刻がなされて、また、尻尾は2個に分かれている事が多く、おそらく上エジプトと下エジプトの二つの王朝の存在を反映しているものと考えられています。
プタハを象徴するものとして、聖牛アピスは、メンフィスにあるプタ寺院の近くのファラオにふさわしい豪華な建物の中で育てられ、自然な中にも大事にされていました。聖牛の平均寿命は14年で、その間、メンフィス社会の権力階層はプタ寺院で開催される数回の年中行事の際、聖牛を見ることができたようです。聖牛が死んだときはあたかもファラオ自身が亡くなったようにその死を悼みました。
死んだ聖牛はミイラ化されますが、防腐処理をして宝石を散りばめた死骸は、サッカラにある埋葬地までの間、市中をねり歩きました。プタもそうであったように、聖牛アピスの起源は王朝時代の遙か以前のエジプトの歴史の創生期に遡ります。ギリシャの占領後、つまりプトレマイオス期には聖牛アピスは複合神サラピスに姿を変えて生き残っています。
聖牛アピス神 ルーブル美術館所蔵品