メソポタミア・ジェムデットナスル期の大変小さな牛の彫刻です。
今から約3千年前のシュメールでは獅子や牛などの力強い動物をモチーフにしたお守りが多く作られていました。現在でも、ジェムデットナスル期の美術品として、アートマーケットでそれらの品を見ることができますが、この品はその中でも別格といえます。
黒ステアタイト製の丸みを帯びた小さな彫刻は、尾を上に向け、足を折り曲げて座る牛を表現しています。表面についた無数のキズが長い時の流れを感じさせ、またとてもなめらかな手触りです。
この品の特に素晴らしいところは、牛の模様を表したクローバー型の白い方解石(もしくは貝)で施された象眼と、首まわりの牛の皮が波うつ様子など、小さいながら細部にわたり表現されたディティールです。また目にも象眼が施されています。
この作品を見ていると、今から数千年前の道具も充分に発達していなかった頃に、このような表現力に溢れた品を生み出した古代人の優れた美的感覚と技術力を感じます。時を経て尚、深い感動を与えてくるこの小さな彫刻に畏敬の念を抱かずにはいられません。まるで時を越えて語りかけてくるようです。
これはおそらくお守りとして身に着けられたか、所有者の地位や所属を表すものだったと考えられます。また、いくつかのこのような品々はシュメール神話の金星の女神、ウルクのイナンナ女神の寺院で発見され、女神への奉納品としても発見されています。
参考資料 Joan Aruz (ed.), Art of the first cities, Metropolitan Museum of Art, N.Y., 2003, fig.2b, 13 / When Orpheus sang, coll. Naji Asfar, 2004, n°6, 11, 12. / Das Vorderasiatische Museum, Berlin, 1992, p.64 / Vente Pierre Bergé, Drouot-Montaigne, 26 mai 2011, lot n°171 (realized price : 24800 euros).