帽子のような髪飾りを身に付け、アンデス先住民に独特の顔立ちが特徴的な男性の肖像。独特で力強い顔の造形が印象的です。全体はオレンジ色で、表面にはクリーム色の塗装が施されています。造形上の特徴だけでなく、個々の時代の精神までもがとらえられた肖像画は、歴史を通してたびたび複数の文明により生み出されてきました。エジプトのファユームのミイラの肖像画や、共和制ローマの胸像、ならびにモチーカのテラコッタ製の肖像などがその一例です。力強く説得力があり、自然でありながらも理想像が象徴されているこれらの工芸品には、当時の世の中を率いていた貴族の誇り高い表情が描かれています。そこには造形だけでなく、モデルの男性の魂をも見ることできます。
- 参考文献 Moche Portraits from Ancient Peru. Christopher B. Donnan著