古代ローマの刳抜式(一つの石を刳りぬいて作る)石棺の一部、蓋の部分です。
古代ローマ人は埋葬の儀式を大変重んじていたため、このような美しい装飾の石棺が存在します。特に、富裕者層はこのような高価な大理石の石棺を生前に作らせていました。
モチーフは美の神ヴィーナスの息子エロスが松明をかかげている図です、エロスは愛の神として知られていますが、生への象徴でもあります。
古代より、エロスとタナトスは表裏一体の存在、人の心の奥深くに潜む生と死への矛盾した衝動を表すと言われています。松明を上へ向けて持つエロスは永遠の生と不滅の魂の象徴として、また松明を下へ向けて持つタナトスは死そのものを司る神、魂をあの世に運ぶ神として描かれていました(エロスが松明を下へ向けて持っている場合は愛の終わりを意味します)。
永遠の生と不滅の魂を象徴するエロスは石棺のモチーフとして優れているといえるでしょう。
古代ローマ人は死後、死者の魂は失われるのではなく、形を変えて永遠に存在すると考えていたので埋葬の儀式は非常に重要なものでした。
このレリーフをさらに魅力的な物にしているのが、左下部分にある長い間海の中に沈んでいた為におきた経年変化です。何らかの理由、おそらく輸出時に船で石棺を運んでいる途中に船が難破し海へ沈んだものと思われます。
このような大変ドラマティックな経年変化はそうそうみられるものではありません。古代美術の面白さの一つに、過去を想像することがありますが、そういった考古学的な意味でも大変満足度の高い作品です。
状態は非常に良く、構図的にも大変良い部分のレリーフです。