左脚を前に出した歩行姿勢で立つ男性の姿を描いたライトウッド(ポプラ)製の彫像、腕は欠損しています。天然色素の顔料が施された胴体は、この作品に生命力を与え、精巧に描かれた顔が特に特徴的です。
頭には丸みを帯びた短髪のかつらがかたどられ、腰には短いリネンのキルトが描かれています。脚の先端部は欠損していますが、足は台座に取り付けられていたものと思われます。
こうした木像の台座には、通常モデルの名前と役職が彫られ、ミイラが腐食または破壊した場合に魂が乗り移れる像として制作されていました。 この像は、台座はなくなってしまっているため人物名を知ることはできませんが、顔に施された大きな目と高い頬骨、細長いシルエットと細いウェスト、筋肉の少ない体つきなどから、古代王朝期の末期に相当する第6王朝期(紀元前2350~2200年)に実在した役人の為に作られた作品であると推測できます。
参考文献:「古代エジプトの美術と死後の世界(Art and Afterlife in Ancient Egypt)」(展示会)日本、1999~2000年