円盤型の土台と一対の取っ手が特徴的な、赤像式陶器の伝統的な技法が施された細長いパナシナイコ・アンフォラ。
それぞれのパネルの中心には宝石が飾られた美しい女性の顔が描かれています。美しくかたどられた女性の髪は頭頂部でレースのリボンでまとめられ、リボンはそよ風に揺れています。横顔で描かれたのこの女性は、上品で洗練された社交界の著名人か美しい女神をかたどったものに間違いないでしょう。
壺の首部分と取っ手の下部分には大きなパルメット(葉が扇状に広がった植物模様)が黒色で描かれています。このアンフォラは、南イタリアのギリシャ植民地(マグナ・グラエキア)に点在していた石室墳に納められた家具の一部である可能性が高いと考えられます。古代ギリシャの陶器の中でも、イタリアのプーリア州原産の陶器は非常に魅力的で、マグナ・グラエキアとして知られていた南イタリアのギリシャ植民地では、アッティカ(アテネ)式の陶器に現地の伝統や新しい手法が融合され、独自のマグナ・グラエキア式陶器が作られていました。マグナ・グラエキアでは、形式にとらわれない形状とデザインが標準的なギリシャ様式に融合したことで、ヘレニズム文明を代表する芸術作品が作り出されたのです。