くるりと上がった尻尾を持つ2匹の猫をあやす2つの顔を持つ神をかたどったブロンズ・フィニアル。野獣をつかさどる神だと思われる、緑と赤の古つやが美しい小ぶりで美しいデザインです。
メソポタミア近くのイラン南西部の山岳地帯ルリスタンより出土。ルリスタン(またはローレスタン)は「ルール族の土地」を意味する言葉で、現在のイラン西部に当たるザグロス山脈全体を示す地名です。メディア人、キムメリオス人および古代ペルシア人などによる侵略が繰り返された社会政治的に複雑な地域でありながら、その文化には見事な金属加工技術が集積されています。様式はさまざまですが、宗教的・世俗的趣きを持つ擬人化された動物や、ザグロス地方で故人と共に埋葬されていた武器などをかたどった青銅が特に有名です。堅くて丈夫な青銅は、鉄に並ぶ貴重な原料と見なされていました。ルリスタンの青銅器には、細長い首、しっぽおよび胴体が特徴的な、優美な曲線を持つ動物の形にかたどられた物が多く見られます。1930年代に再発見されたルリスタンの素晴らしい金属加工術は、第二次世界大戦後に目覚ましい進歩を遂げました。これらの青銅器に関する文書記録は存在しないため、その複雑な造形に込められている宗教的な意味を理解するのは難しいですが、恐らく地域固有の何らかの神を表現したものと思われます。これらの精巧な青銅器は、兵士とその家族を戦いに備える目的で、部族のリーダーにより保管されていたと考えられています。野獣をつかさどる神および女神には、文明そのものと同じくらい古い歴史があり、これらの神には、自然界を超越したいという人間本来の欲求が映し出されているとも言われています。この素晴らしいブロンズ像には、神秘的な動物を首元に従えた、ヒョウの下半身としっぽを持つ人間の女性にも野獣にも見える女神の姿が描かれています。その抽象的な造形は、記憶を超えたさまざまな神秘的な感情を見る者に思い起こさせます。
- 参考資料 Wilfried Seipel, 7000 ans d'art perse, 2002 / Musée Cesnuschi, Bronzes du Luristan, 2008